1.「報酬を得る目的」
2.「訴訟事件・・・その他一般の法律事件」(=事件性がある)
3.「鑑定・・・その他の法律事務」
はじめに:ALSPとは何か、そして日本におけるその位置づけ
近年、企業法務の世界では「ALSP(Alternative Legal Service Provider)」という言葉が注目を集めています。これは、日本語に直訳すると「代替的な法務サービス提供者」となるものの、実際のところは「弁護士や法律事務所以外で、法務をサポートするサービス業者」を幅広く含む概念として使用されています。具体的には、契約書レビューやドキュメントマネジメント、調査業務、コンプライアンス支援など、これまで法律事務所や企業内法務部門のみが行ってきた業務を外部からサポートする、サービス提供者を指します。
欧米ではすでに多数のALSPが台頭し、デジタル技術を活用して、より効率的な法務サービスが提供される時代になっています。日本でも、法務部門における業務の増大やDX(デジタルトランスフォーメーション)の波を背景に、ALSPとしてのサービスが登場してきました。
もっとも、日本には「弁護士法第72条」があり、「非弁行為の禁止」によって弁護士以外が法律事務を行うことを原則として禁じています。この条文が、ALSPのように弁護士でないサービス提供者が法務業務を担うことについて、法律上の疑問や不安を生む原因となっていました。
しかし、2023年(令和5年)8月に法務省から公表されたガイドライン「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」(以下、「法務省ガイドライン」といいます)は、ALSP事業者の業務適法性を検討するうえで参考となる指針を提示し、一定の範囲においては明確に「これは弁護士法第72条違反とならない」ことを示しました。これにより、ALSPの利用に対する企業や法務担当者の安心感が高まり、今後さらなる普及が見込まれています。
本稿では、ALSPがどのような理由で適法といえるのか、特に法務省ガイドラインを中心とした解説を行いながら、ALSPを賢く使いこなすためのポイントをご紹介していきます。また、弊社「クラウドリーガル」でも導入している「事件性(法律上の紛争等)を排除する仕組み」についても触れながら、ALSPが法務の担い手不足を補う「救世主」として、いかに有用であるかを述べていきます。
1. ALSPが適法である理由――弁護士法第72条の概念と「事件性」の解釈
1-1. 弁護士法第72条(非弁行為の禁止)の概要
日本で法務サービスを提供する際に、常に気を配るべきなのが「弁護士法第72条」です。同条は、いわゆる「非弁行為の禁止規定」として、次のように要約できます。
弁護士または弁護士法人でない者が、「報酬を得る目的」で「訴訟事件・・・その他一般の法律事件」に関し、「鑑定・・・その他の法律事務」を取り扱ってはならない。
この条文は、ある程度一般的・抽象的に記載されているため、「弁護士以外が、報酬をもらって法律業務を行うのは違法だ」と受け止められがちです。
しかし、条文の構造を丁寧にみると、違反が成立するには
という3つの要件をすべて満たす必要があります。逆にいえば、「事件性がない」「法律事務とはいえない」などのいずれかの要件を満たさない場合には、弁護士法第72条違反とはならない、ということです。
1-2. 「事件性がある」とは?――法務省ガイドラインの見解
法務省ガイドラインは、「訴訟事件・・・その他一般の法律事件」に該当するかどうか、すなわち「事件性」があるかどうかを重要な判断基準としています。具体的には下記のように説明されています。
「法律事件」とは、法律上の権利義務に関し争いや疑義があり、または新たな権利義務関係の発生が問題となる案件を指す。
このうち「その他一般の法律事件」に該当するには、訴訟事件や非訟事件などに準じる程度に法律上の権利義務に関する争いや疑義があるという、いわゆる「事件性」を要する。
例えば、当事者間に紛争が既に発生しており、それをどう解決するかという段階(和解交渉など)は「事件性」が認められやすい。
一方で、通常の企業間契約や、慣例的に続けてきた取引を正式に文書化する場面などでは「事件性」は認められないのが通常である。
ここでポイントとなるのは、「事件性」が認められるかどうかは、個別具体的に判断されるということです。ただし法務省ガイドラインは、企業法務の通常業務に伴う契約の作成・審査には多くの場合事件性がないと明示しました。これにより、企業がALSPを使って契約書レビューを行う場合でも、「事件性がない範囲」ならば弁護士法違反の疑いは生じないことがはっきり示されたのです。
1-3. 「鑑定その他の法律事務」とは
弁護士法第72条にある「鑑定・・・その他の法律事務」とは、「法律上の専門的知識に基づいて法的見解を述べること」や、「法律上の効果を発生・変更等する事項の処理」を指すとされています。法務省ガイドラインによると、以下のような行為は「法律事務」に当たらず、適法とされやすい例です。
契約書の文面上の差異(条項や文言)を機械的に抽出・表示する。
あらかじめ登録した「条項例」「一般的な解説」「裁判例」などを、単に参照提示する。
つまり、ALSPが行うサービスでも、法的リスクの評価や法的見解の提供といった「鑑定行為」まで踏み込まなければ、「鑑定・・・その他の法律事務」には該当せず、弁護士法違反の問題は生じないと整理できます。
2. 行政書士・司法書士の業務とALSP――「事件性のない」契約書レビュー
法務省ガイドラインには、行政書士や司法書士が行う業務についても示唆があります。たとえば、行政書士は許認可申請書の作成代行、司法書士は登記申請など、それぞれ根拠法令によって限定された範囲内を超えて、一部の契約書作成・チェック等の、いわゆる予防法務も行っています。
しかし、これら資格者による契約書レビューでも、「事件性のない」ものに関しては、弁護士法第72条違反の問題は生じないという点が、法務省ガイドラインでもあらためて示唆されています。つまり、契約内容に関して当事者間で深刻な争いが生じているわけでもなく、通常の企業取引のレベルであれば、行政書士や司法書士が一定の契約サポートを行っても違法ではない、ということです。
これは、ALSPが提供するサービスにも同じことが当てはまります。「事件性のない」契約書レビューに留まるならば、弁護士でなくても法律事務には該当しないと解する根拠が得られるわけです。
3. ALSPは、なぜ「事件性のない案件」や「法律事務に至らない業務」を扱えるのか
3-1. ALSPのサービス範囲
ALSPが企業に提供するサービスとしては、主に下記のような内容が考えられます。
- 1. 通常の企業活動に伴う契約書のレビュー
- 2. 日常的な法務・労務相談
- 3. 通常の企業活動に伴う契約書の作成
- 4. 社内規定整備
- 5. 新規サービスの法令適合性調査
- 6. 内部通報窓口(ただし、法的見解を出さず、必要な場合は弁護士へエスカレーション)
- 7. 株主総会・取締役会の運営支援
- 8. 商標等知的財産権
- 9. その他システム
- 1. スマート契約書ひな形
- 2. 電子締結機能
- 3. 契約書管理機能
これらはいずれも「事件性のない」契約書レビューや事務支援行為が中心です。かつ、「事件性のある」場合でも法的な解釈・リスク評価に踏み込むようなときには、提携弁護士や社内弁護士に繋ぐなどのエスカレーションフローを設けていれば、弁護士法72条に触れる危険性はほぼありません。
3-2. 事件性を排除するための仕組み――「クラウドリーガル」の例
弊社で提供している「クラウドリーガル」というサービスも、まさに上記の考え方を実践したALSPです。「クラウドリーガル」では、生成AIによる事件性検出システム(特許出願済み)と、案件担当の弁護士によるチェックという、二段階の仕組みを設計しています。具体的には以下のような流れです。
1. クラウド上に契約書をアップロード
2. 生成AIが契約書の文面を解析し、「紛争可能性の高い文言」「訴訟リスクが想定されるキーワード」などを自動でスキャン・分析
3. AIと並行して「担当弁護士」が目視で内容・背景等をチェック
4. 「事件性があるかもしれない」と判断された案件は、ユーザー企業と協議のうえ、対応可否を決定
このプロセスにより、「事件性のない」通常の契約書チェックはAIを活用した業務効率化が可能となり、「事件性がある」場合には速やかに排除するフローを確立しています。結果として、「非弁リスク」を排除しつつ、迅速かつ低コストで大量の契約業務を処理できるのが「クラウドリーガル」の強みです。
4. 法務省ガイドラインのポイント整理
ここで、法務省ガイドライン「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」の主なポイントを要約しておきます。
1. 弁護士法第72条違反か否かは個別判断
刑罰法規である以上、最終的には裁判所の判断に委ねられる。ガイドラインはあくまで一般論を示す。
2. 「報酬を得る目的」について
無償の場合はもちろん、サービス利用料が直接的に法的助言への対価でない場合(単なるシステム使用料など)も「報酬」には当たらないと判断され得る。
3. 「訴訟事件…その他一般の法律事件」に該当するか(事件性)
紛争が具体化しているような和解交渉、示談交渉などは事件性あり。通常の企業取引の契約書作成・レビューは事件性がない。
4. 「鑑定…その他の法律事務」にあたるか
個別具体的な法的リスクを判定したり、法的見解を述べたりする機能は「鑑定」等に該当し得る。それに対し、ひな形提供や法令調査などは該当しない場合が多い。
5. 弁護士・弁護士法人へのサービス提供や、組織内弁護士が関与する場合
たとえ上記1~4の要件を満たしたとしても、利用者が弁護士や弁護士法人、あるいは組織内弁護士であり、直接精査する場合には、通常は弁護士法第72条違反とはならない。
上記のとおり、ガイドラインには「事件性がない業務」「法的見解を直接提供しない業務」であれば、弁護士法違反のリスクがかなり低いことが示されています。ALSPはまさにこの枠組みでサービスを提供するため、「適法に」ビジネスを展開できるのです。
5. ALSPがもたらす意義――法務人材不足の「救世主」
5-1. 企業法務の現場が抱える課題
日本企業の法務部門は、慢性的な人材不足や業務量の増加に悩まされています。新しい法規制への対応、グローバル展開に伴う複雑化するコンプライアンス、M&Aなどの大型案件対応……。にもかかわらず、法務部の人員が潤沢に増えるわけではないという現実があります。
さらに、法務人材を企業が十分に確保できているわけでもありません。大企業でさえ、十分な数の法務人材を雇用できないことが多く、中小企業やスタートアップにいたっては、法的知見を社内でまかなうのが難しい状況です。
5-2. ALSPを賢く利用するメリット
こうした状況下で、ALSPは次のような形で企業法務を支えます。
1. 契約書レビューや管理の効率化
大量の契約書をAIや専門家がレビューし、法的なリスクを低減する。企業法務の担当者がコア業務のみ集中できるため、生産性が高まる。
2. コスト削減
全件を外部法律事務所に依頼する場合と比べて、単価を抑えつつ安定した品質を確保できる。
3. スピードアップ
クラウド型サービスならば、契約書のやりとりもオンラインで完結し、レビューに要する日数が短縮される。
4. 専門知識の補完
ALSPは、特定分野に特化した技術やテンプレート、チェックリストを保有する場合が多い。法務部門に足りないリソースや専門知見を補うことができる。
このように、ALSPの活用は「人材不足」に悩む企業法務にとって極めて有効なソリューションです。
5-3. 法務省も「国際競争力強化」の観点で後押し
法務省のガイドライン公表時の記者会見において、斎藤健法相(当時)は「企業の法務機能の向上を通じ、国際競争力の強化に資する」と述べています。グローバル競争にさらされる日本企業が、契約書をはじめとする法的文書を迅速かつ的確に処理できる体制を整えることは、ビジネススピードの観点でも喫緊の課題です。
ALSPは、こうした国際競争力強化の流れにも貢献し、結果として日本企業全体のリーガルリスク対応力を底上げする存在として期待されています。
6. ALSP活用の留意点――「事件性」を見極める体制づくりが鍵
6-1. 事件性の有無を正しく判断する仕組み
前述の通り、ALSPの適法性を担保するうえで最も重要なのは「事件性のない案件を扱う」ことです。逆に言うと、紛争がすでに発生している、もしくは深刻化しつつある事案にむやみに介入すると、非弁リスクが高まります。
そのため、ALSPを利用する企業としても、事件性が疑われる案件が発生した場合には、しっかりと弁護士に相談するか、ALSP側で紛争チェックのフローが整っているかを事前に確認しておく必要があります。
6-2. システム+弁護士の「ハイブリッド」チェック
AIなどのテクノロジーは、契約書の文面やキーワード解析に優れていますが、当事者間の経緯や関係性、背景などの定性的な情報は人間の目で評価しなければならない場面が多くあります。そこで、
AI・システムによる自動検知
(例)紛争ワード、反社会的勢力リスク、クレーム履歴のマッチングなど
弁護士・法律の専門家による最終判断
(例)当事者の対立状況、契約交渉過程などの事情を総合的に判断
というハイブリッド型のプロセスが重要になります。「クラウドリーガル」では、こうしたフローを実装しており、ユーザーが安心してサービスを利用できる体制を整えています。
7. まとめ:ALSPは法務人材不足の救世主――賢く利用して効率化を目指そう
本稿で解説してきたように、ALSP(Alternative Legal Service Provider)は、日本において適法にサービスを提供する余地が十分にあります。ポイントは「事件性のない業務にフォーカスし、法律事務にあたる領域や紛争案件を扱わない」こと、そして「万一事件性が疑われる場合には、速やかにエスカレーションする仕組み」を備えていることです。
令和5年8月に公表された法務省ガイドラインは、AIを用いた契約書レビューや管理サービスを中心に、その適法性の判断基準を具体的に提示しています。そして、「通常の企業法務」であれば多くの場合事件性がなく、また「単なるひな形提供や文言比較、チェックリストによる確認行為」は法律事務には当たらないため、弁護士法第72条に抵触しないことが明確になりました。
ALSPを活用することで、企業法務の担当者は単純作業や定型的レビュー業務から解放され、より高度なリーガルリスク分析や戦略法務に時間とリソースを割くことが可能になります。すなわち、人手不足やコスト圧のなかでも業務の効率化を図り、企業競争力を強化することができます。
弊社「クラウドリーガル」では、特許出願中の生成AIシステムによって、事件性を自動で検知することに加えて、弁護士のダブルチェックを行うフローを構築しており、お客様が安心してご利用いただける環境を提供しています。もし契約書レビューや法務効率化でお悩みの際には、ぜひご相談いただければ幸いです。
ALSPは、法務人材不足の時代の「救世主」ともいえる存在です。 うまく使いこなして、企業法務部門の業務効率化とリスク管理の高度化を同時に実現していきましょう。
本稿のまとめポイント
1. ALSPは違法ではない
- 弁護士法第72条の要件を満たさなければ問題なし。事件性がなく、法律事務に踏み込まない範囲であれば適法にサービス提供可能。
2. 法務省ガイドラインが示す「事件性」概念
- 紛争性・疑義のある契約や和解交渉などは「事件性あり」→弁護士の領域。
- 通常の企業契約は「事件性なし」→弁護士以外でもレビュー可能。
3. 「鑑定・・・その他の法律事務」に該当しない機能
- 文言比較、法令調査などは法律事務に当たらない。
- 法的リスク評価や個別見解を述べる場合はエスカレーションすることが大切。
4. 事件性を排除する仕組みが必要
- 弊社サービス「クラウドリーガル」では、生成AIによる事件性検出+弁護士チェックを実装。
5. 法務人材不足への有効な解決策
- ALSPは、定型的な契約レビューや、その他の法務業務を引き受け、企業法務をサポートする。
- 企業はコストを抑えながら、法務の生産性と質を高めることが可能。
以上の点を押さえていただくと、ALSPへの理解がより深まるはずです。企業法務の「守り」をより強化しつつ、「攻め」の戦略法務にもリソースを投入したいと願う企業にとって、ALSPは今後ますます欠かせない存在となるでしょう。